社会起業家(ソーシャル・アントレプレナー)とは(2002年11月、竹内秀樹)

最近話題の社会起業家(ソーシャル・アントレプレナー)や社会的起業(ソーシャル・ベンチャー)について、竹内秀樹がレポートします。

社会的起業(ソーシャル・ベンチャー)

社会的な問題の解決のために、企業の経営手法を積極的に活用して取り組む起業活動のこと。英語で「ソーシャル・ベンチャー」、起業家は「ソーシャル・アントレプレナー」と呼ばれる。従来のボランティア活動や、企業の社会貢献活動などと違い、事業の継続性やスタッフの専門性を重視しているのが特徴。

株式会社やNPO(非営利組織)
環境分野など

ビジネス感覚で、環境や福祉の問題に取り組む「社会的起業」が注目を集めている。株式会社やNPO(非営利組織)など形式はさまざまだが、活動の継続には収益も必要と、経営の安定や事業の拡大にも力を入れる。非営利のボランティア事業と、営利・利益目的の企業活動の、ちょうど中間を行く形だ。金や出世より、やりがいを求める若者の新しい就職先としても人気が出始めている。

スワンカフェ

2002年10月下旬、東京・銀座にオープンした「スワンカフェ」。330円のカプチーノと550円のサンドイッチを注文すると、黒いエプロン姿の女性スタッフが「お待たせしました」と、少し緊張した面持ちで持ってきてくれた。

小倉昌男さんのヤマト福祉財団
障害者に雇用

今風のしゃれたカフェだが、スワンカフェで働くスタッフ19人のうち14人が障害者。ヤマト運輸(東京)とヤマト福祉財団が1998年に設立したベーカリーチェーン「スワン」の直営店だ。ヤマト運輸会長だった小倉昌男さんが、ヤマト福祉財団を設立した際、障害者の自立を促すための雇用の場を作ろうと起業した。

従来の福祉作業所との違い

従来の福祉作業所と違うのは、企業経営のノウハウを生かして、合理化や販路の拡大などを工夫し、継続的な収益を上げようとしている点だ。例えば、作るのが難しいパン生地は専門メーカーから取り寄せ、それを自社で焼く。近くの会社へパンを売りに行くなど、まめな努力を惜しまない。カフェの併設も商品の付加価値を高めるためだ。

時給750円から820円

今のところ、従業員には時給750円から820円を払い、1年ごとに昇給し、賞与もある。「収益を上げるほど、障害者の雇用と自立につながる。株式会社の形を取っているのも、慈善ではなく、事業の継続性を重視しているから」と常務の寺本正次さんは話す。

食える市民運動

営利を目的としないNPOでも、社会的起業に取り組み、活動資金に充てるために事業収益を伸ばそうとするところが出てきた。中部リサイクル運動市民の会(名古屋市)はその代表格。代表理事の萩原喜之さん(49)は「食える市民運動」を目指し2000年にNPOの法人格を取得。リサイクル製品の販売など、事業は多岐にわたる。2001年の事業収益は2億円近くで、活動費の約7割をまかなえる。

利潤追求が目的ではない

「会社をつぶさないように経営する感覚と同じ。NPOだからという甘えは許されない。一般企業と違うのは利潤追求が目的ではなく、自分たちの地域の環境を改善していきたいという使命感だけです」と萩原さんは話す。

社会的起業家の表彰
ソフト化経済センター

ソフト化経済センター(東京)では2000年から、目立った活動をしている社会的起業家の表彰を行っている。「右肩上がりの経済成長が望めない中、金もうけや出世より、新しい価値を生み出すことに手ごたえを感じる人が増えているのではないか。これからの生き方や働き方に大きな影響を与えるだろう」とソフト化経済センター理事長代行の町田洋次さんは話している。

ビジネススクール

養成コースや活動資金支援も

社会的起業に対する関心は、日本でもこの数年、急速に高まってきた。起業家の養成や支援の仕組み作りが求められてきている。

ハーバード大やスタンフォード大

アメリカでは1980年代に入って、ハーバード大やスタンフォード大などのビジネススクールに社会的起業家の養成コースや研究所が設けられるようになった。

ETIC

NPO法人の「ETIC」(東京)は、そうした動きに刺激され、2002年4月、社会的起業を志す若者たちの事業計画のコンテストを開催。全国から71件の応募があった。また、2002年8月からNECと共同で学生を対象にした社会起業家の養成塾も行っている。具体的な資金調達や運営方法などを訓練し、実際の起業に結びつけていく。

若者の熱意

ETIC代表理事の宮城治男さん(30)は、「自分たちの活動も一種の社会起業。そうした経験も参考にしながら、社会を変えていきたいという同世代の若者の熱意を支援していきたい」と話す。

未来証券
ベンチャー・ファンド

活動資金を提供する取り組みも始まっている。未来証券(東京)は2002年2月、社会性の高い事業を手がけるベンチャー企業を投資対象とするファンドを設立。資金規模は20億円で、すでに環境問題に取り組むベンチャー企業など3社に出資した。

酒井雅子氏

「中長期的に見ると、経済的な価値だけでなく、社会的な価値を生み出す企業が成長する可能性が大きいと判断したため」と酒井雅子専務は話す。

町屋の再生活用に取り組む労働組合

大阪府も2002年から地域社会の問題に取り組むNPOや企業などに資金提供を行っている。52件の応募の中から、町屋の再生活用に取り組む労働組合など、5団体に100万円の奨励金を与え、経営アドバイザーの派遣などを行う。

大阪府の資金援助

「きめ細やかな社会サービスを行うためには、社会的起業家の存在が不可欠になる。2003年度以降も、同様の資金援助をしていきたい」と大阪府の担当者は話している。

行政からの独立性
谷本寛治氏

社会的起業に詳しい一橋大学大学院商学研究科の谷本寛治教授によると、会社とNPOの違いは収益をメンバーに配分するか、しないかの違いだけ。NPOも従来の慈善型、行政や企業の監視・批判型から、社会的なサービスを行ったり、行政へ政策提案を行う事業型が増え、社会的起業家の要素が強くなり、スタッフに専門性も求められるようになってきている。

下請けにならない

「行政が見落としてきた社会的な問題、多様化した市民のニーズに取り組むために、社会的起業家の役割は重要になる。行政と共同で事業を行うケースなども増えるだろうが、単なる行政の下請けにはならず、自主・独立性を意識して活動していくことが大切」と谷本教授は話している。